※以下の情報は、全て弁護士外岡潤が独自の調査に基づき整理・考案した平成27年12月の本コラム執筆時点での方法論であり、以後関係機関等によるアナウンスや法改正、ガイドライン等により改訂される可能性があります。
同じく以下の情報は、外岡が信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
また当ホームページ中に掲載した資料を使用した場合に生じた損失については一切の責任を負いかねます。
平成28年1月以降、要介護認定等の申請事務についても個人番号の記載が義務付けられることとなりましたが、認知症であり後見人も就いていない様な介護保険サービスのご利用者に関し、周囲の事業者等支援者はどのように、またどこまで関わるべきでしょうか。
この問題につき、平成27年12月15日、厚生労働省より「介護保険最新情報Vol.506(介護保険分野等における番号制度の導入について(依頼)[PDF:1.2MB]」(以下「本通知」といいます)が発出されました。本通知には、介護保険関係事務に関する保険者および介護事業者の関わり方や注意点、Q&A 等が掲載されています。
外岡はこの利用者のマイナンバー取扱いの問題につき、ホームページ「外岡さんに聞いてみよう」 において、随時方針を考えまとめた資料等を公表してきました。(本事務所ホームページ掲載の過去のコラム「「介護事業者は利用者に送られる通知カードに関しどのように関わるべきか」についてはこちら 。)
今回厚労省より出された本通知の内容は、結論からいうと「事業所が利用者の代わりに記載業務を行っても差し支えないが、利用者本人が認知症等であれば無理に埋める必要は無い」というものであり、ほぼこれまでの外岡の見解と合致しています。これは実務に配慮したものであり妥当なものと評価できますが、細かい点や状況に応じた対応方法の整理、考え方の理解など尚補足が必要な点も多くみられるため、本ページにおいて以下本通知の解説を中心に、マイナンバー制度の実務的運用に必要な法的知識や実務上想定されるQ&A 等をまとめました。皆さまの参考になれば幸いです。
介護保険給付の申請書等に個人番号を記載することは、法令に基づく義務であるため、基本的には申請等を行う者に申請書等への個人番号の記載を求めることとなるが、申請者等が高齢であることにも鑑み、申請受付時等の対応は下記のとおり柔軟に行うこととしています。
(6.個人番号導入に伴う配慮について(1)申請書受付時の配慮」通知11ページ以下)
番号欄が未記入でも、これまで通り申請等の書式は受理され、役所の方で補充されます。
ご利用者が認知症の場合は、無理にケアマネージャーが代筆する等しないようにしましょう。
従業員との関係では、雇用主である事業所は番号法上の「個人番号関係事務実施者」にあたり、当該従業員やその扶養家族からマイナンバーを集め、給与所得の源泉徴収票や社会保険の届などに記載する等を本来の業務として行います。
一方利用者との関係では、事業所は要介護認定申請等を飽くまで「代行」する立場に過ぎないため、利用者自身から都度依頼を受ける必要があります。
保管についても同様であり、利用者から依頼があっても個人番号自体を書き取り、或いは通知カードの写真を撮る等して恒常的に番号を保管することはできません。
後見人が記入する。
その他、
「同一の給付の2回目以降の申請等の際には、保険者において初回の申請により当該申請者の個人番号を既に保有していると確認できる場合には、申請窓口において個人番号の記載を求めないこととしても差し支えない」とされています(6.(1)通知12 ページ)。
また、「郵送による提出の場合は、本人確認のための書類は、写しにより申請を受け付けて差し支えない」とされています(6.(3)通知14 ページ)
本通知は、利用者のカード自体を事業者が預かることについては言及していません。
もっとも実務上、特別養護老人ホーム等の施設においては多数の入居者が施設に住民登録をしているため、認知症の方も含めまとめて施設側で通知カードを預かるという対応を採った所も多いでしょう。
整理しましたのでご参照ください。
Bについては、本通知の要点②(事業者がご利用者の個人番号を収集・保管することはできない)と矛盾するのでは?と思われるかもしれません。
しかし「カードそのもの」を預かることは可能であり、カードに書かれた番号を書き写すこと(これを「収集・保管」と呼んでいます)が許されないのです。
施設の場合は、入居者から依頼されカードを預かる場合も多いでしょう。
預かった通知カードは本来施設が永続的に保管すべきものではなく、また個人番号は今後年金等紐づけが進み様々な場面で必要となってくるため、家族(できれば後見人が就任することが望ましい)が普段保管すべきといえます。そこで、各利用者の家族に連絡し、「通知カードを預かっているので取りに来てほしい」と伝えます。
遠方など事情があれば郵送も可能ですが、カード自体の引き渡しについては明文上規制は無いものの紛失リスクは極力回避すべきであるため、最低限簡易書留等、何かあったときに検証できる方法によるべきです。
かかる方法も常態となってはならず、最後の手段とすべきであり、通常は家族に来所してもらい面会した上で引き渡します(確認証等も作成し記録に残します)
ご利用者の通知カード等を預かることは、一律にすべきではありません。
施設と違い複数の事業所が出入りする利用者宅において、特定の事業者が(例えそれがケアマネージャーであっても)当該利用者から通知カード等を預かるという特別な関係をつくることは紛失リスクの観点から危険であるためです。
カード等を一時的に預かることができるのは、飽くまで施設とその入居者という特殊な関係にあるためであるといえます。
なお、施設として預かる場合であっても、それは「カード自体を」預かるに過ぎないのであって、前述の様に個人番号を従業員との関係と同様に書き取り一枚の紙にまとめて記録することは許されないことに注意してください。それは一重に、雇用関係と違い利用者との関係では事業所は「関係事務実施者」に該当しないためです。
もっとも、家族にカードを引き渡せたとしても、その家族が親なり本人のマイナンバーを申請書類等に記入できるかというと、本人が認知症であれば法定代理人(後見人)に就任していない限り「権限がない」ということになってしまうのです。
更に施設側としても、利用者の個人番号を控えることはできない以上、現実に認知症であり後見人もいない入居者については(家族がいなければ尚更)、個人番号を記入する方策は存在しない場合が多いといえるでしょう。その場合は要点①のとおり、空欄で出さざるを得ないことになります。
本通知には記載がありませんが、実務上重要な点であるため触れておきます。平成28年1月以降の通知カードの個人番号カードへの切替えの手続や、通知カード紛失時の再交付手続等も、ケアマネージャーや施設等事業者の誰もが代理として行うことができます。
その場合の要件はこれまでみてきた申請書類の記載と同様ですが、詳細は総務省が運用指針(「通知カードの運用上の留意事項」)を発表し、各自治体がこれを基に独自の手続を定めています。個人番号カードへの切替については、施設であればそこに行政職員が出張し施設単位でまとめて行う方法も可能とされており、個別に応じる前に便利な方法が無いか、最寄りの自治体マイナンバー課に尋ねてみるとよいでしょう。
これは前述(本通知の要点:②)のとおり、事業者は個人番号関係事務実施者でない以上、仮に利用者本人の許諾・依頼があったとしても個人番号を収集・保管すべきではありません。
セキュリティの観点からも危険といえ、要介護関係の書式にマイナンバーが記載されたものは、都度番号欄にマスキング処理を施すかシュレッダー処理する様に心がけましょう。
懸念されるのは、施設等で入居者の個人的手続を一手に引き受け、要介護度の更新で毎年必要だからという理由で利用者の個人番号リストを作成・保管してしまう事態です。
個人番号欄は空欄で提出しても、最終的には行政の方で探索・補充してくれますので、無理に管理しようとせず未記入のまま提出する様にしてください。
こちらもB(2:在宅の場合)で述べた通りですが、補足しますと、例えば認知症の利用者がごみを溜めた家に一人で住んでおり、通知カードをすぐ紛失しそうであるといった特殊な状況下で緊急性が認められる場合には、例外的にヘルパーが一時的に預かるという措置をとることは可能です(これを民法上「事務管理」といいます)。
もっとも飽くまで一時措置であるため、包括や行政に報告し指示を仰ぎましょう。
これまでの解説の理解の為、裏付けとなる法律知識および 基本的なルールについて説明します。
一般法と特別法は、ちょうど親亀と子亀の関係にあります。
番号法(特別法)は厳格ですが、実務上の手続においては民法上の「代理」が広く認められる運用となっているため、民法の原理原則の理解が不可欠です(次項で説明)。
本人の意思に関係なく、包括的な代理権限を有する場合(未成年者に対する親権、被後見人に対する後見人など)。
本人が委任することで、特定の目的(例:住民票を取りに行く等)の範囲内で代理人として行動することを認める場合。
代行する者は自らの意思で判断せず、
本人の意思を実現する道具に過ぎない
「介護事業者が利用者のためにできること」のチャートで紹介したように事業者がマイナンバー関連業務を代行する場合は、通常「任意代理」として行うことになります。
代理人に選任する行為を「委任」といいますが、本来口頭でも成立するものであり、委任状を提出するのは本人の意思を書面で確認するために過ぎません。
逆にいえば、氏名さえ書ければ委任状は作成できてしまうため、利用者がその内容を十分理解していないということもあり得ます。完全な意思能力があるか疑問が残る場合は、無理に代理として行動しない方が無難でしょう。
関係事務実施者の例としては、「従業員とその雇用者」が典型です。
雇用者は、雇用に伴う当然の義務として従業員の社会保障や税等に関する手続を行うため、本来必要なものとして各従業員から個人番号を聞き出し、一覧表を作成する等して継続的に保管することができるのです。勿論、保管できる反面それだけ厳格な安全措置が求められます。
本通知の要点:②で解説したとおり、例えば要介護度の更新につき、施設であれば元々施設が利用者のために行わなければならない業務ではありません。従って当該業務につき事業者は関係事務実施者に当たらず、利用者のマイナンバーを集め保管することもできないということになるのです。もっとも、利用者から依頼(委任)を受け「個別に」当該業務を代行することは、一般法たる民法の理論により可能です。ですが、飽くまで個別に受ける権限であるため、恒常的に利用者のナンバーを事業者の方で集め保管することまでは認められない、ということです。
この点(本来的業務としてはできないが、個別に受任すればできる)を混同しないよう注意が必要です。
「外岡さんに聞いてみよう!」に掲載されたQAの一部を転載します。
典型的なケースですが、実は悩ましい問題をはらんでいます。
実の親子でも、お互い成人していれば相手のために当然に代理人となるものではなく、飽くまで任意代理として行う必要があるところ、利用者本人が認知症であれば理屈上は誰もその人のために事務手続きをしてあげることができないことになるのです。後見人を付けるしか解決法は無いのですが、現実に難しい場合も多いと思いますので、個人番号欄の記載は慎重にしつつ、通知カード等の保管はご家族がすべきです。
流れとしては、まず施設に送られてきた通知カードは施設側で一時預かり、速やかに家族に引き渡し、要介護関連業務等で必要となる場合はその都度家族に番号欄を記入してもらい、家族の依頼を受けて窓口に施設が提出するということとなります。
厳密にいえば代理権のない家族からの依頼となるため、マイナンバーの記載については慎重になるべきでしょう。